確かな根拠はなかったが、ページの中に国内の住所を懸命に探していた。しかし、サイト内に記されている住所はアメリカのものだけであった。育毛剤の差出住所と一致している。
それでも、あのオペレータが国内にいるという考えは揺るぐことはなかった。産毛が生える前、一度、注文した育毛剤とは全く違うものが届いたことがあった。そのとき、確か国内の住所に返送した。着払いで送るように言われた。
――宅配便の控えは?
受領を確認した後、捨ててしまった。
大阪市内の住所だった。就職の面接の帰りに持参しようと思ったのだから大阪に間違いない。どこの面接を受けたときだったのだろう。最寄の駅は……。
34
女は、野村と名乗った。
何処にいるのだろうか。アメリカ屋はアメリカの法人なのだから、当然アメリカに会社があるはずだ。
ホームページに手かがりになりそうな情報があるに違いない。
パソコンの前に戻った。マウスをヒステリックに振ったが、開いていたはずの画面が開かなかった。電源が落ちていた。苛苛しながら立ち上げると、メールソフトが自動的に開き、受信し始めた。自動受信設定をしていたことに、苛立ちが増してきた。掴んだマウスを無造作に動かした。
育毛剤関係のメールマガジンが終わりを知らず入ってくる。構わずインターネットに接続し、アメリカ屋のホームページを開いた。調べるべきはただひとつ、アメリカ屋の住所だ。大阪の住所が載っていたら、そこだと思った。
利用案内のすべてのページを順に開いた。
――あの女は日本にいる。
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男はしししと笑った。新聞を読んでるだけあって、情報通である上に、予想外の言葉を放つ。
タイミングよくサルのキキキという笑い声が聞こえた。
「て、いうか、光男さんが違法やねんな? 裁判所はプロやねんから、違法って言うわな。いや、でも何があっても、欲しい人は欲しいやろ? 強壮剤とかと同じで。違法でも欲しい。て、いうか、個人輸入が合法なら、お客さんの家に直接送ってもらったらいいねん。光男さんは代行料もらって。まぁ、そんなんどうでもええわ。ほんで、どうなったんや? 続き話して」
直接、客の家に送る……。そうだ。今聞いたばかりのこの男でさえ、個人輸入と代行の違いについて理解している。今更だが、馬鹿さ加減に愕然とした。
この男は一体何者だ。ただの三面記事ファンか。
「オペレータ、どうなったん?」
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「訴えられたん? アメリカ屋、訴えられたん? そう言うたら、ちょっと前の新聞で、育毛ケアの会社が訴えられた記事、見たで。全然生えへんからって訴えはってん。売った方も必ず効果あるって言うてないって言い張ったらしいけど、根負けして金払って和解したみたいや」
話し続けている隣の男に耳を傾けていた。次は慰めの言葉を言いそうだ。
「確か、その人、四年で七百万近く使ったって書いてたで。光男さんに言うといて。いっぺん訴えてみたらどうかって」
真剣な面持ちを見ると悪気はなさそうだが、提案の意図が判らなかった。
「育毛の効果はあったんですよ。その訴訟した人みたいに訴える利益ってありますか? アメリカ屋は合法で営業してますし」
そう訊ねると、
「いや、訴えてみたら、思わぬ方向に行くこともあるかなと思って……二十四本のセット、お詫びに送ってくれるかも知れへんなぁと思って」